2007年6月15日金曜日

バスもタクシーも

 ずいぶん前に録画したNHKスペシャルを見た。長距離バス業界の話だ。


 簡単に説明すると、規制緩和後、長距離バス業界に新規参入が続出し、業者の数が緩和前の2.4倍にもなった。そのせいで、過度競争が起こり、バス料金がどんどん下がっていく。今は多くの業者は法律で定められた最低の価格よりも低い価格で旅行会社から仕事をもらっている。そうでもしないとやっていけないという。


 収入が減るため、バスの運転手の収入が減るだけではなく、仕事が前よりきつくなった。番組で取材した運転手の年収は緩和前の600万から400万くらいに落ちた。1回の運転で二人交互で全部10時間以上も走ることも多い。仕事の間の時間は何時間かしかないため、家の帰らずに会社で仮眠を取る。一回家を出ると、一週間くらい家に帰れない。休みも週一日しかない。


 さらに会社が整備点検にかけられる金も減った。運転手の過酷な仕事環境と安全性を十分に確保できていないバスで、事故が多発している。


 タクシー業界も似たような状況だ。過度競争によって値引き競争になり、ドライバーの収入がどんどん減り、仕事環境もどんどんきつくなっていく。



 この話には非常に違和感を持つ。規制緩和が悪いと思わない。問題は無謀な新規参入と業界内の不協力にあると思う。


 実際顧客にとっては、全体的には低価格高サービスの方向にこの二つの業界が変化しているのは確かだ。しかし、運転手たちが犠牲になっている。最近になって顧客の安全も犠牲になってきた。


 規制緩和によって新規参入が可能になり、業界で競争が起き、提供するサービスが向上されていく。競争に敗れた会社が業界から撤退し、いいサービスを提供できる企業だけが生き残る。また値段も需給によって適正レベルに落ち着き、利益率が下がり、新規参入が収束する。これが本来あるべき変化の過程だ。


 しかし、実際では過多の新規参入によって値段がどんどん下がっていくにもかかわらず、ほとんどの会社は撤退しない。つまり皆で我慢して競争し続ける。これによって価格は適正価格よりも低いレベルで維持されてしまう。低すぎる価格のせいで、どの会社も利益をほとんど出せないが、いままでの蓄積で何とかやっていく。


 そのうち体力がなくなり、撤退が増え、供給が減り、価格が上がってくるはずだが、実際いったん低い価格の時期が長く続いてしまえば、顧客は値上げに強い抵抗を示すようになる。それを危惧して価格を上げられない会社が多くいる。タクシー業界で実際この状態にあると思う。


 思い切って値上げに踏み出すのは唯一の解決策だが、団結してそれを出来る地域が少ない。誰かが裏切れば、値上げを実行した会社が大損をするからだ。何も出来ないまま共倒れになるのはオチだ。


 バス業界は旅行会社から低い値段を提示されてもそのまま受け入れるしかないのも、一揆団結ができないからだと思う。法律で定められている値段以下で仕事を請けないと、ほかの誰かが受けてしまうのだ。悲しいことに、その受ける会社も利益を出せない。それでも仕事がないよりはいいのだと。



 みんなそれぞれ自分の利益を追求する結果、業界全体が損をしている。非協力的な過度競争が全参加者にとってマイナスなのだ。しかし、分かっていてもこの状況から抜け出せないのは、現実に起きている囚人のジレンマの例だ。



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