2007年12月26日水曜日

東京・京都・早・慶連携 東大にとっては


■東大・京大・早大・慶大、大学院生「交流協定」を締結(読売新聞 - 12月25日 21:04)
 
 東大・京大・早大・慶大が大学院生教育で連携をするという協定を25日締結した。その内容はこの四つの大学の大学院の学生は、来春から、ほかの三つの大学の大学院の学生として最大1年間(博士後期課程で最大2年間)在籍することが出来るというものだ。



 この連携の背景には明らかに政府の教育再生会議が打ち出す大学院教育改革の「三割制度」がある。「三割制度」とは、同一大学の同一分野で内部進学者を「最大3割程度」にするというものだ。まだ決定ではないようで、施行されるかわからないのだが、今回は動きはそれを意識したものに違いない。



 この新しい制度は東大にとって喜ばしいものではないかもしれない。東大の大学院博士前期課程(修士課程)の学生の半分強は東大出身者だ。違う分野の専攻に入学した学生が主流でなければ、東大は間違いなく「三割制度」で内部進学者を減らせざるを得なくなる。



 内部進学という言葉を使うと、東大の学生は簡単に東大の院に進学できるというイメージはあるが、実際、少なくとも私が所属している工学系研究科ではそのようなことはない。内部(同じ専攻の学部生)の学生も外部(他大や東大他専攻の学部生)の学生も同じ試験を受け、同じ選考基準で選抜されるので、内部の学生は外部の学生より、明らかに優位ということはない。(もちろん、専攻によっては多少の差はあるだろうが。)



 つまり、選抜試験を行なって、合格した学生は結果的に3割以上は内部であるということである。(再度言うが、もちろん専攻によって選抜基準の差はある。)そこで三割しか入学させることが出来ないとなれば、恐らく泣く泣く学生を手放す専攻もあるでしょう。



 東大の大学院生数は約14000人、京大は約9500人、早稲田は約8500人、慶應は約4000人。ここで、東大の30%は東大の同分野で、10%は東大の他分野の学生だとすると、14000万人中約8500人は他大からの受け入れになる。今他大から受けいているのは7000人だとしても、約1500人の東大生は他大へ進学することになる。これは非常に大きな数だ。



 しかし、専攻数では、東大と京大は他の二校よりは多い。理工系だけで比較すると、東大は42専攻(工学、理学、情報理工、数理、情報)、京都39専攻(工学、理学、エネルギー、情報、生命、地球)、早稲田23専攻(理工)、慶應17専攻(理工)である。専攻の分け方が異なるので、単純比較は出来ないが、一部の専攻は他大に同じ専攻がないかもしれない。つまり、東大の1500人の中には、今までやってきた研究を続けられない人がいる可能性もあるということだ。



 そこで、この大学院の連携は生まれたと考えられる。つまり、手放した学生を東大で指導することを可能にするということだ。もちろん同じメリットはほかの三大学も受けるが、東大は恐らくもっともそれを望んでいるであろう。また、このような大学院の連携と取ることによって、「三割制度」の施行を阻止する目的もあるかもしれない。いずれにしても、今回の話は東大の小宮山総長が他の三大学に持ちかけたのは興味深い。実際に学生のニーズを考えると、東大で学びたいというニーズはもっとも大きいだろうから、他の三大学にとっても悪いことではない。



 個人的には、「三割制度+大学院連携」が大きな効果をもたらすかについては非常に疑問的である。これよりも、全大学院生に対して、強制的に一定期間(たとえば半年間)ほかの大学院の研究に参加させたほうが効果的だと思う。小宮山総長は強制的な制度を好まないようだが、それならば東大からもちゃんと外に出て行くインセンティブがあるような制度にしてほしい。